シリーズ2 住宅産業のコンサルタント鵜澤泰功が語る
「インフレ時代の賢い家選び」
−法改正ショック−
(2007年9月14日 中日新聞)
1.構造偽装問題が残したもの

建築構造偽装問題の政治的、政策的な結末として、国土交通省は㈰建築基準法の改正(特に運用面での考え方を抜本的に変えた)㈪特定瑕疵(かし)担保責任法の公布(瑕疵担保責任履行のための資力確保の義務付け)の対策を打ち出しました。
六月に新建築基準法が施行されましたが、これは建築着工前に設計図面などをチェックする建築確認のために、新たに構造計算適合性判定制度を導入するなど、建築確認や工事検査を厳格に運用することが大きな狙いです。(表1参照)
確かに消費者にとって、建物の安全性が確保されるのは歓迎すべきことです。しかし規制を強化した建築業界は大混乱の状況であり、建築価格の上昇や建築の自由度の制限など思わぬ“副作用”を消費者も覚悟する必要がありそうです。
これまでゼネコンや建築会社は、発注者の要求に従って構造躯体の無駄をできるだけ省いた設計で建築コストを削減していました。もし確認申請時に強度不足が指摘されても、従来は図面を差し替えて対応することが可能でした。しかし今後は不適合が見つかれば、その時点で申請は却下され、最初からやり直しとなるため、確実に審査に通るよう強度に余裕を持たせた設計を行うようになれば、当然コストは上昇することになります。 改正法によって戸建住宅はすでにコストアップになり、マンションの場合は販売が始まる1〜1年半後から価格に影響するのは避けられそうにありません。
中でも最も大きな打撃が懸念されるのが、個人の設計事務所や中小・零細工務店と思われます。通常の場合、建築士が1人で作成した確認申請書類には、10〜20カ所程度の修正が出るといわれます。このような状況にもかかわらず、今後不備のある確認申請書類が一切受け付けられなくなると、中小・零細業者は経営が立ち行かなくなる恐れがあるのです。そうなれば市場競争が希薄となり、結局価格上昇という形で消費者に跳ね返ることも容易に予測できます。
確かに安全な住宅確保は、非常に重要な政策でしょう。しかしすべてを国の規制に頼った品質確保は、大きなコスト発生を伴います。全ての住宅の品質を確保させていくための法律運用にはとてつもなく不自由な規制とコストを覚悟する必要があります。 構造偽装事件によって、欠陥マンションを買った消費者は、建て替え費用の一部を税金によって補てんされました。供給業者が倒産しても確実にこの欠陥の補てんがなされるように特定瑕疵担保責任法もつくられました。しかし私たちが日常的な消費の中で、欠陥商品(車や家電)を購入しても生産者以外は、だれも補てんはしてくれません。もし欠陥商品の責任を法律や行政のみに求めていくとすれば、商品の価格はとてつもないものになってしまうことでしょう。
私はあえてここで「買い手の責任」の問題提起をすることで、法律や規制にだけ頼るのではなく、冷静で思慮深い消費者と健全なモラルを持つ住宅供給業者とが協力して、良質で価格パフォーマンスの高い住宅を手に入れる道をふさぎたくないと考えています。 これから住宅を購入される皆さんには、単に住宅会社の規模やブランドや法律の規制を当てにするだけでなく、しっかりと住宅会社の意識やプロとしての良識の有無を見極める目を持っていただきたいものです。そのことが、住宅コストを無用に引き上げないことにつながるものだと思います。
2.劇的に変わった住宅政策
建築構造偽装問題の政治的、政策的な結末として、国土交通省は㈰建築基準法の改正(特に運用面での考え方を抜本的に変えた)㈪特定瑕疵(かし)担保責任法の公布(瑕疵担保責任履行のための資力確保の義務付け)の対策を打ち出しました。
六月に新建築基準法が施行されましたが、これは建築着工前に設計図面などをチェックする建築確認のために、新たに構造計算適合性判定制度を導入するなど、建築確認や工事検査を厳格に運用することが大きな狙いです。(表1参照)
確かに消費者にとって、建物の安全性が確保されるのは歓迎すべきことです。しかし規制を強化した建築業界は大混乱の状況であり、建築価格の上昇や建築の自由度の制限など思わぬ“副作用”を消費者も覚悟する必要がありそうです。
これまでゼネコンや建築会社は、発注者の要求に従って構造躯体の無駄をできるだけ省いた設計で建築コストを削減していました。もし確認申請時に強度不足が指摘されても、従来は図面を差し替えて対応することが可能でした。しかし今後は不適合が見つかれば、その時点で申請は却下され、最初からやり直しとなるため、確実に審査に通るよう強度に余裕を持たせた設計を行うようになれば、当然コストは上昇することになります。 改正法によって戸建住宅はすでにコストアップになり、マンションの場合は販売が始まる1〜1年半後から価格に影響するのは避けられそうにありません。
中でも最も大きな打撃が懸念されるのが、個人の設計事務所や中小・零細工務店と思われます。通常の場合、建築士が1人で作成した確認申請書類には、10〜20カ所程度の修正が出るといわれます。このような状況にもかかわらず、今後不備のある確認申請書類が一切受け付けられなくなると、中小・零細業者は経営が立ち行かなくなる恐れがあるのです。そうなれば市場競争が希薄となり、結局価格上昇という形で消費者に跳ね返ることも容易に予測できます。
確かに安全な住宅確保は、非常に重要な政策でしょう。しかしすべてを国の規制に頼った品質確保は、大きなコスト発生を伴います。全ての住宅の品質を確保させていくための法律運用にはとてつもなく不自由な規制とコストを覚悟する必要があります。 構造偽装事件によって、欠陥マンションを買った消費者は、建て替え費用の一部を税金によって補てんされました。供給業者が倒産しても確実にこの欠陥の補てんがなされるように特定瑕疵担保責任法もつくられました。しかし私たちが日常的な消費の中で、欠陥商品(車や家電)を購入しても生産者以外は、だれも補てんはしてくれません。もし欠陥商品の責任を法律や行政のみに求めていくとすれば、商品の価格はとてつもないものになってしまうことでしょう。
私はあえてここで「買い手の責任」の問題提起をすることで、法律や規制にだけ頼るのではなく、冷静で思慮深い消費者と健全なモラルを持つ住宅供給業者とが協力して、良質で価格パフォーマンスの高い住宅を手に入れる道をふさぎたくないと考えています。 これから住宅を購入される皆さんには、単に住宅会社の規模やブランドや法律の規制を当てにするだけでなく、しっかりと住宅会社の意識やプロとしての良識の有無を見極める目を持っていただきたいものです。そのことが、住宅コストを無用に引き上げないことにつながるものだと思います。
3.安くて良い家は存在するのか
構造偽装問題で有名になったマンション業者は「周辺マンションよりも二割広くて二割安い」という宣伝文句でした。本当かどうかは、はなはだ疑問ですが、購入した多くの消費者は「安くて良い家」が存在すると考えて購入したと想像できます。<br>
もちろん供給業者の企業努力によって、少しでも安く、品質やデザインレベルの高い住宅を供給するという努力を否定するものではありません。しかし、誤解を恐れず言えば、同一条件の立地で「二割広くて二割安い」住宅を供給し続けることは、一般的には不可能でしょう。<br>
安く造るためには、何かを優先し何かを犠牲にする必要があるのです。重要なのは何を優先して何を犠牲にするか、という積極的選択なのです。マンションであれば、立地を犠牲にして安くて広い物件を選ぶ、注文住宅であれば、プラン(オーダーメードの間取り)を犠牲にして規格プランで我慢することで、性能やデザイン性を低下させることなく価格を抑えるということです。自分にとって「何が譲れないことで、何が妥協できることなのか」を明確にして「自分の責任で家を覚悟して選び取る」ことだと思います。すべての住宅の品質を一定レベル以上に確保した場合のコストは、普通の消費者が負担しきれるレベルでは済まないでしょうし、欠陥住宅の責任をすべて法律の問題に帰属させることは、どんな政治体制の国家であっても困難なことではないでしょうか。
4.買い手の責任感が良い家を造る
「名医は患者の言いなりにはならない、命を救うために、あえて患者をしかりもする。しかしやぶ医者は患者の言いなりになって、糖尿病の患者に飽食させる」。良い住宅を見極める例え話があります。
つまり消費者の言いなりになってプランを作ることで、大切な性能やプロとして必ず消費者に理解してもらう重要なことを犠牲にする業者は、決して消費者の味方ではないということです。施主の言いなりになることなく、できること、できないこと、してはならないことをしっかりアドバイスしてくれる業者や担当者こそが名医であり、信頼にたる業者だと思います。
消費者も「買い手の責任」を十分に認識し、契約後のむやみなプラン変更や結果的に建築基準法に違反することを無理に求めないことが、結局は「良くて安い家」を造ることになると理解すべきです。
住宅は、20〜25工種にもなる大工種(基礎、木工事、屋根工事など)と2〜3万点にも及ぶ部品点数、3〜6カ月もの長い工事期間によって造られます。これを法律や確認検査、第三者の検査によって管理することは、100%不可能です。
良い家は建築請負会社の設計力や技術力、管理能力、そして何よりも現場の人々のモラルによって支えられる現場が支配する産業なのです。何でも言いなりにやる“やぶ医者工務店”でなく、本当に大切なことをしっかりとアドバイスしてくれる名医の工務店を選ぶことを心掛けることこそが、重要であると理解いただけるのではないでしょうか。
鵜澤 泰功 うざわ やすのりさん
1995年生まれ。建築cadシステム会社を経て、ハウスメーカーを中心にしたコンサルティング業「ビルダーズシステム研究所」を設立。市場調査や住宅商品開発。保証制度の構築コンサルティングなどを行う。住宅ローン債権を証券化する「モーゲージローン」を扱う「日本モーゲージサービス」代表。著書に「住宅は金融商品である」(新建新聞社刊)。
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